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東京地方裁判所 昭和39年(ワ)476号 判決 1966年12月26日

第四四六三号事件原告・第四七六号事件原告・第九三〇八号事件反訴被告 増山子之吉

第四四六三号事件被告・第四七六号事件被告 堀内実 外三名

第九三〇八号事件反訴原告 堀内実 外一名

主文

被告堀内純子は原告に対し、別紙目録<省略>(二)記載の建物を収去して、同記載の土地を明渡し、かつ昭和三八年二月二日から右土地明渡ずみまで一月金三七二円の割合による金員を支払え。

被告竹村篤郎は原告に対し、別紙目録(二)記載の建物のうち付属建物部分から退去して、その敷地五一・一四平方メートル(一五・四七坪、添付図面<省略>中、青線で囲んだD部分)を明渡せ。

被告堀内実、同堀内さだゑに対する原告の本訴請求はすべてこれを棄却する。

被告堀内実、同堀内さだゑの反訴請求はすべてこれを棄却する。

訴訟費用は、本訴及び反訴を通じてこれを一〇分し、その四を原告の、その余を被告らの負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告代理人は、本訴につき、主文第一、二項同旨及び「被告堀内実、同堀内さだゑは原告に対し、別紙目録(一)記載の建物を収去して、同記載の土地を明渡し、かつ各自昭和三八年二月二日から右土地明渡ずみまで一月金七八三円の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決と仮執行の宣言とを求め、反訴につき、主文第四項同旨及び「訴訟費用は被告堀内実、同堀内さだゑの負担とする。」との判決を求めた。

二、被告ら代理人は、本訴につき、「原告の請求はすべてこれを棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、反訴につき、「別紙目録(三)記載の土地は、被告堀内実、同堀内さだゑの共有(被告実の持分は三分の二、同さだゑの持分は三分の一)に属することを確認する。原告は、被告堀内実、同堀内さだゑに対し、上記土地につき、上記持分に応じ所有権移転登記手続をせよ。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二、当事者双方の主張

一、原告代理人は、本訴請求の原因及び被告の主張に対する反論並びに反訴請求の原因に対する答弁として、次のとおり述べた。

(一)  別紙目録(三)記載の土地(以下、本件土地という)は、被告堀内実、同堀内さだゑ(以下、被告実、同さだゑという)の共有(被告実の持分は三分の二、同さだゑの持分は三分の一)に属していたところ、昭和二八年一二月四日訴外東芝商事株式会社のために債務者訴外株式会社堀内工業所極度額四五〇万円とする同年一一月三〇日付根抵当権設定契約に基づく同設定登記がなされ、同二九年九月一〇日右根抵当権実行のため東京地方裁判所において競売手続開始決定を受け、同月一七日競売申立記入登記がなされた。その結果、訴外高橋仙吉は本件土地を競落し、同三〇年一〇月一二日競落許可決定を受け、競落代金を支払つてここに本件土地の所有権を取得し、同三一年五月三一日その旨の取得登記を経由した。しかして、高橋は同年六月一日訴外不二越精機株式会社に本件土地を売り渡し、同月七日その旨の所有権移転登記手続をなし、さらに原告は同三八年一月三一日右不二越精機より本件土地を買い受けて、同年二月一日その旨の所有権取得登記を了した。

(二)  被告実、同さだゑは、別紙目録(一)記載の建物(以下、本件建物という)を共有(被告実の持分は三分の二、同さだゑの持分は三分の一)して、本件土地の一部である同記載の土地を、被告堀内純子(以下、被告純子という)は、別紙目録(二)記載の建物を所有して本件土地の一部である同記載の土地を、また被告竹村篤郎は別紙目録(二)記載の建物のうち付属建物部分に居住してその敷地五一・一四平方メートル(一五・四七坪、添付図面のうち青線で囲んだDの部分)を、それぞれ占有している。

(三)  よつて、原告は本件土地所有権に基づいて、被告実、同さだゑに対しては、本件建物を収去して別紙目録(一)記載の土地を明渡し、かつ各自原告が本件土地所有権取得登記を経た日の翌日である昭和三八年二月二日から右土地明渡ずみまで一月金七八三円の割合による相当賃料額に等しい損害金の支払を、被告純子に対しては、別紙目録(二)記載の建物を収去して同記載の土地を明渡し、かつ前同日から右土地明渡ずみまで一月金三七二円の割合による相当賃料額に等しい損害金の支払を、また被告竹村篤郎に対しては、別紙目録(二)記載の建物のうち付属建物部分から退去してその敷地である前記五一・一四平方メートルを明渡すことを、それぞれ求める。

(四)(イ)  被告らの抗弁事実中、本件建物が本件土地とともに相続により被告実、同さだゑの共有に属し、いずれも昭和二八年一〇月一六日被告ら主張のような登記を経たものであること、しかして本件土地のみが根抵当権の目的となつたことは認めるが、その余は否認する。

(ロ)  競売は、国家機関が差押によつて債務者または目的物件の所有者から、右物件に対する処分権を徴収し、この処分権の行使としてなす公の執行処分であり、右手続の結果、競落人は目的物件の所有権を原始的に取得するものである。従つて、被告ら主張のように、競落人と異なる者が目的物件を取得するなどということは、右手続の性格から考える余地のないことである。

また、仮に被告実、同さだゑにおいて、競落人高橋仙吉が本件土地の所有権取得登記を経た昭和三一年五月三一日に本件建物の敷地について法定地上権を取得したとしても、本件土地につき訴外不二越精機株式会社のために所有権移転登記のなされた同年六月七日、原告のために同様の登記のなされた同三八年二月一日には、右法定地上権について未だ登記を経ていない。従つて、被告両名はこの法定地上権をもつて不二越精機及び原告に対抗することはできない。

のみならず、本件建物については、昭和三一年六月五日に至つて訴外菊川ちゑのため同日付売買を原因とする所有権移転登記がなされ、そしてこれが同三八年九月一八日売買の無効を理由に抹消登記されている。しかして、右菊川名義の登記は被告実、同さだゑが債権者の追及を免れるため菊川と通謀して本件建物の所有権を移転したかのような虚偽仮装の行為をし、これに基づいてなした虚偽仮装のものであるから固より対抗力がなく、反面同三一年六月五日から同三八年九月一八日までの間は、右建物について形式的にも実質的にも被告両名名義の登記が存続していないわけである。そうすると、被告両名は前記の如く不二越精機及び原告がそれぞれ本件土地所有権の取得登記を経由した時点において、同地上に登記した建物を有していなかつたことになり、そして、建物保護法一条によつて地上権を第三者に対抗することができるためには、地上権者においてその地上に登記した建物を所有し、しかもその登記名義人は地上権者自身であることを要するのであるから(最高裁昭和四一年四月二七日判決参照)、被告実、同さだゑは同条によつてもその主張する法定地上権を不二越精機及び原告に対抗し得ない理である。

二、被告ら代理人は、本訴請求の原因に対する答弁及び被告らの抗弁並びに被告実、同さだゑの反訴請求の原因として、次のとおり述べた。

(一)  本訴請求原因第一項の事実中、本件土地が原告主張のように被告実、同さだゑの共有に属し右土地につき原告主張のような抵当権設定登記がなされて、主張のように競売手続が進められ、その結果訴外高橋仙吉のために、その後訴外不二越精機株式会社、さらに、原告のために、それぞれ所有権取得登記が経由されていること並びに請求原因第二項の事実は認めるが、その余の事実は否認する。

(二)(イ)  本件土地は、依然として被告実、同さだゑの共有に属する。すなわち、本件土地は本件建物とともに相続によつて被告実、同さだゑの共有となり、いずれも昭和二八年一〇月一六日その旨の登記(土地については移転登記、建物については保存登記)を経由したところ、前記のように本件土地のみについて根抵当権が設定され、競売手続が開始されたものである。そこで、被告実、同さだゑは自ら本件土地を競落しようと考えているうち、当時堀内工業所の債務整理に当つていた訴外村上等から右工業所に対する債権者らの追及を免れるためには、一応高橋仙吉名義で競落し、その後に被告実、同さだゑの共有名義に更めるのが得策であると助言され、被告両名はこの助言に従い、村上を介して数回に亘り高橋に金七三万円相当の金員を交付した。かくて、被告実、同さだゑは前記のように高橋名義で本件土地を競落し、競落許可決定を受け、競落代金を支払つてその所有権を取得し、かつ高橋名義で所有権取得登記を経た。ところが、村上はさらに被告実、同さだゑに対し、本件土地を高橋名義のまゝにして置くのは同人が競売ブローカーであることから危険であり、取り敢えず村上が監査役を勤めている不二越精機名義に移転登記し、暫くしてから被告両名々義に移すが良いと述べるので、法律的知識に疎い被告両名は再び村上の言を信じて、前記のようにその旨の所有権移転登記を了したのである。しかるに、その後において、被告実、同さだゑ不知の間に、本件土地につき前記のような原告のための所有権移転登記が経由された。さすれば、本件土地は実質上被告実、同さだゑにおいて競落してその所有権を取得し、たゞ被告両名と高橋及び不二越精機とが通謀して高橋が競落し、同人から不二越が買受けたかのように虚偽仮装の行為をし、これに基づいて虚偽仮装の各所有権取得登記を経由したものに他ならない。従つて、原告が不二越精機から本件土地を買受けたとしても、もとよりその所有権を取得するに由ないものである。

(ロ)  仮に以上の主張が容れられず、原告において本件土地所有権を取得したものとしても、被告実、同さだゑは、前記のように本件土地に抵当権が設定された当時、同地上に本件建物を共有し、かつその旨の所有権保存登記を経ていたから、本件土地が競落された結果、本件建物の利用に必要な範囲において法定地上権を取得するに至つた。従つて、被告実、同さだゑは右法定地上権をもつて土地所有者に対抗でき、原告は本件建物の収去、本件土地の明渡を求めることはできない。

(三)  よつて、被告らは原告の本訴請求に応じ難いのみならず、被告実、同さだゑは反訴として原告に対し、本件土地が被告両名の共有(被告実の持分は三分の二、同さだゑの持分は三分の一)に属することの確認と、本件土地につき右持分に応じ所有権移転登記手続をすることを、それぞれ求める。

第三、証拠関係<省略>

理由

一、本件土地が被告実、同さだゑの共有(被告実の持分は三分の二、同さだゑの持分は三分の一)に属するところ、右土地につき原告主張のような根抵当権設定登記がなされ、原告主張のような経過で訴外高橋仙吉、同不二越精機株式会社、そして原告のために、それぞれ所有権移転登記が経由されたことは、当事者間に争いがない。右争いのない事実に基けば、本件土地は競落によつて高橋の所有に帰し、その後、同人から不二越精機に、不二越精機から原告にそれぞれ譲渡されて、現に原告の所有に属するものと推認され、他にこれに反する証拠はない。

二、被告らは、前記競売手続において、本件土地を競落したのは実質上は被告実、同さだゑであり、高橋及び不二越精機と通謀して、高橋名義で競落し、同人から不二越が買受けたかのように虚偽仮装の行為をし、これに基づいてそれぞれ前記の如き登記を経たものと主張するけれども、被告さだゑ本人尋問の結果によつても右主張事実を認めるに足らず、他にこれを認めるに足る証拠はない。

三、しかして、本訴請求原因第二項の事実は当事者間に争いがない。そこで、法定地上権に関する被告らの抗弁及び原告の再抗弁について判断する。

本件建物は、本件土地と同様に相続により被告実、同さだゑの共有に属し、そのうち右土地のみについて前記根抵当権が設定されたものであることは、当事者間に争いがない。そうすると、高橋が本件土地を競落し、競落代金全額を支払つた時点において、本件建物につき、これを建物として利用するに必要な範囲で法定地上権が成立したとみるべきことは疑をいれない。

原告は、不二越精機及び原告が本件土地についてそれぞれ所有権取得登記を経由した昭和三一年六月七日及び同三八年二月一日には、未だ法定地上権設定の登記がなされていなかつたから、被告実、同さだゑは不二越精機及び原告に右地上権を対抗し得ないと主張する。そして、なるほど成立に争いのない甲第一号証によれば、本件土地について右設定登記の経由されていないことが認められるけれども、建物保護法一条の規定は法定地上権の対抗要件についてもまた適用があると解すべきであり、そして本件建物について、すでに昭和二八年一〇月一六日被告実、同さだゑのため所有権保存登記のなされていることは当事者間に争いがないのであるから、被告実、同さだゑは本件土地上に右の如く登記した本件建物を所有することによつて、法定地上権を不二越精機及び原告に対抗できる筋合といわねばならない。従つて、この点に関する原告の再抗弁は失当である。

進んで、成立に争いのない甲第二号証によれば、本件建物について昭和三一年六月五日訴外菊川ちゑのため同日売買を原因とする所有権移転登記がなされ、かつこの登記は同三八年九月一八日に至つて売買無効を原因として抹消登記手続のなされていることが認められ、一方、右抹消登記原因及び弁論の全趣旨に照せば、上記菊川ちゑ名義の登記は被告実、同さだゑが債権者の追求を免がれるため菊川と通謀して同人に本件建物の所有権を移転したかのように虚偽仮装の行為をし、これに基づいて虚偽仮装の所有権移転登記を経由したものと推認される。しかして、原告は、上叙のような事実関係の下においては、被告実、同さだゑは、菊川の所有名義のままである昭和三一年六月五日から同三八年九月一八日まで、その間に前記のように本件土地を譲り受けた不二越精機及び原告に対して、建物保護法一条の規定によつても法定地上権を対抗できないと主張する。ところで、同条に基き、土地上に登記した建物を有することにより地上権を第三者に対抗できるというためには、右建物の登記が原則として地上権を主張する者の所有名義であることを要するわけであるが、本件における菊川名義の登記は、上記認定の事実に徴し、建物所有権者と登記名義人との不一致に因りそれ自体無効のものと解するの他ないのであるから、延いて本件土地上には実質的に被告実、同さだゑの共有する本件建物が存在し、かつ右建物について被告両名々義の登記が終始有効に存続していたことになるというべく、従つて、上記期間内といえども、被告両名は不二越精機及び原告に対し、建物保護法一条に基く法定地上権の対抗事由を有していたといわねばならない。(この点に関し、原告の引用する最高裁判決は、建物について当初から実質上の権利と符合しない無効の保存登記のみが存在する事案であつて、本件とは事情を異にする。)なお、仮に不二越及び原告が善意であるため、被告実、同さだゑは菊川ちゑが本件建物の所有権を取得しなかつたことを対抗できないとしても、法定地上権の目的建物の譲受人は、特に反対の意思表示のない限り右地上権をも取得すると解すべきであるから、不二越精機及び原告は、前記のとおりそれぞれ本件土地所有権を取得した以前に本件建物について登記を経た菊川によつて法定地上権を対抗され、さらにこれが抹消登記されて被告実、同さだゑの登記名義が回復した後は、右被告両名から地上権を対抗されることになるといわねばならない。さすれば、いずれにしても、原告の前記主張は採るを得ない。

しかして、本件建物についてこれを建物として利用するに必要な範囲は他に特段の事情が主張立証されない以上、本件土地のうち別紙目録(一)記載の土地に限られると認めるのが相当であるから、被告実、同さだゑは右土地の範囲において法定地上権を取得したといわねばならぬ。

四、してみれば、被告実、同さだゑは正当な権原により別紙目録(一)記載の土地を占有しているわけであるから、本件土地所有権に基づいて被告両名に対し本件建物の収去、別紙目録(一)記載の土地明渡等を求める原告の本訴請求はすべて失当として棄却すべく、一方、被告純子、被告竹村は、いずれも正当な権原なく別紙目録(二)記載の土地を占有していることになるから、本件土地所有権に基づいて被告純子に対し、別紙目録(二)記載の建物を収去して、同記載の土地を明渡し、かつ原告が前記の如く本件土地所有権取得登記を経由した日の翌日である昭和三八年二月二日から右土地明渡ずみまで一月金三七二円の割合による賃料相当の損害金(弁論の全趣旨に照し、上記金額は別紙目録(二)記載の土地の相当賃料額と認められる)の支払を求め、被告竹村に対し、別紙目録(二)記載の建物のうち付属建物部分から退去してその敷地である五一・一四平方メートル(一五・四七坪、添付図面のうち青線で囲んだDの部分)の明渡を求める原告の本訴請求は、すべて理由がある。

五、被告実、同さだゑの反訴請求の認められないことは、本訴請求についての判断から自ら明らかである。

六、よつて、原告の本訴請求は、被告純子、同竹村に関する部分は認容し、被告実、同さだゑに関する部分を棄却し、また被告実、同さだゑの反訴請求はこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を適用し、なお、仮執行の宣言の申立については相当でないと認め、これを却下することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 中田四郎)

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